こわーい話

怖い話を紹介します。

貧乏神

貧乏神1


 私が以前に交際していた男性は、非常に霊感の強い人でした。
 ある日その人と、町中を歩いていた時の事です。
 交差点で信号待ちをしていたら、彼が「アッ、あの人の鞄・・・」と驚いたように呟きました。
 「どうしたの?」
 怪訝に思い、私は彼に尋ねましたが、彼は何も答えてくれません。
 それでも私は、「一体、どうしたって言うの」と、彼にしつこく尋ねました。
 すると彼は、緊張した表情をしながら、こう言ったのです。
 「あそこの男が、持っている鞄」
 「多分あの中には、沢山のお金が入ってる」
 「でも沢山の手が、そのお金をつかんでるんだ」
 私は、彼が言っている男が誰なのか、すぐに見当がつきました。
 男を見た瞬間、私は背中が寒くなる感じがしたからです。
 その時、信号が青になり、男が歩き出しました。
 私と彼も、人の流れに沿って歩き始めましたが、男との距離が縮まるにつれ、私の緊張感も否応なしに高まります。
 すると彼が、私にこう、ささやきました。
 「大丈夫さ」
 「でも・・・可哀想だけど、関わり合わない方がいい」
 そして彼は、私の手を握り締めたのです。
 あんな彼は、初めてでした。
 だから私は、思わず彼の顔を見ながら、呆然と歩いてしまったのです。
 彼も私の事が心配なのか、私の顔を覗き込んでいました。
 するとその時、「ドッ」と音がし、男が私にぶつかったのです。
 男はよろめき、すぐに倒れ込んでしまいました。
 そして、男の鞄から沢山の札束が飛び出したのです。
 私は「すいません!」と男に謝り、札束を拾おうとしました。
 すると彼が、「ヨセ!」と大声で怒鳴ったのです。
 でも私は、「彼の態度に、男が怒り出すかも・・・」と考えました。
 だから私は、慌てて「急いでいたので、すいません」と謝りながら、札束を拾い上げて男に手渡したのです。



   貧乏神2


 男は札束を鞄に入れながら、「私も前を、よく見ていなかったので・・・すいません」と言い、特に怒っているように見えません。
 男はそのまま、立ち去りました。
 その時、私は彼が居なくなっている事に気付いたのです。
 私は彼に、何度も電話をしましたが、彼は電話に出てくれません。
 仕方がないので私は、そのまま一人で家に帰りました。
 家に帰ってから気付いたのですが、私は財布を落としたようです。
 でも、どこで落としたのか、私には全く見当がつきません。
 そこで私は、彼にも話を聞いてもらいたくて、もう一度、彼に電話をしました。
 今度は彼も、すぐに電話に出てくれ、すぐに私の家に来てくれる事になったのです。
 でも、私の家に来てくれた彼は突然、私に封筒を手渡し、こう言いました。
 「愛情は、多くの人を救うけど、お金はもっと多くの人を救うと思う」
 「君には、これが必要だ」
 彼の手渡した封筒の中を見てみると、数枚の一万円札が入っています。
 私は無性に腹が立ち、「何を考えてんのよ」と彼を怒鳴りつけてしまいました。
 すると彼は、泣きそうな顔をしながら
 「ごめん」
 「もう君とは、つきあえない・・・」
 と言います。
 私が彼と会うのは、それが最後になりました。
 その後、私の人生は不運続きで、今では多くの借金を抱えています。
 また、不気味な体験も、私はよくするようになりました。
 例えば、買い物の代金を払おうとお金を取り出すと、
 「お金を、持っていかないで・・・」
 と声がし、私の手やお金に沢山の手が、つかみかかってくるのです。
 その手の中には、もう一人の私も・・・
 もう一人の私は、私を恨めしそうに見ながら「どうして、お金を持っていくの?・・・」と叫ぶのです。
 もしかしたら私も、あの人達の仲間になりつつあるのかも・・・。